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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)72号 判決

東京都杉並区浜田山一丁目三番二号

控訴人

竹井光治

右訴訟代理人弁護士

山本嘉盛

向山隆

東京都杉並区成田東四丁目一五番八号

被控訴人

杉並税務署長 内藤近義

右指定代理人

大道友彦

田島久照

鈴木祺一

東根宏一

加藤呂一

村山文彦

右当事者間の所得税更正処分等取消請求控訴事件にき当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和四三年三月一四日付でなした控訴人の昭和三七年分所得税更正処分および重加算税賦課決定並びに昭和四三年一一月一九日になした原判決添付別紙目録記載の動産に対する差押処分を取り消す。若し右差押処分取消しの請求が容れられないときは、同処分が無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、控訴代理人が、「原判決四枚目表五行目」また、仮りに「以下同枚目裏五行目までの主張を撤回する」、と述べたほか、原判決事実摘示の記載(但し、右撤回部分を削除する)と同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所も、控訴人の第一次的請求をいずれも却下し、予備的請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は、つぎに附加、訂正するほか、原判決理由の記載と同一であるからこれを引用する。

一  原判決七枚目表三行目の「直義」、同七行目の「直義」、同八枚目裏四行目の「直義」を、それぞれ「義直」と訂正する。

二  原判決八枚目裏九行目の上から一字目「き、」のつぎに、つぎのとおり加える。

(1)  乙第一号証の一に「隣りの内田弘の奥さんと思はれる人に尋ねた」旨の記載があるのに、原審証人内田武子が、村山赤松という人の顔を覚えていない、と証言していても、同号証の信用力に影響はない。(2)同号証には「郵便受に三月一三日の夕刊と三月一四日の朝刊が投入されていた」と記載され新聞名の記載がないけれども、原審証人村山義直の証言(第二回)によれば、「郵便受の口からはみ出していたのを見ただけで何新聞であるかわからない。」「新聞名を記載することは必要がないと思つたのではつきりみなかつた。」というのであつて、新聞が右のような状態で郵便受に入れられている場合新聞の日付、朝、夕刊の判別が不可能とはいえないから、新聞名を確認せず、同号証に新聞名が記載されていないからといつて直ちに同号証の新聞の日付の記載が虚偽であると断定することはできない。また、原審証人赤松秀一は、その証言において、新聞名を記憶していないと証言しているが、右新聞の日付を確認したのは前記村山であつて、同証人でないことが、同証人の証言によつて明らかであるから、この点についての同証人の証言があいまいであるからといつて同号証の前記の記載が虚偽の事実の記載であるということもできない。(3)同号証には、本件の更正通知書をドアーのすき間から玄関内に投入した時間が一六時一五分であると記載されているのに、乙第三号証の一、二の自動車運行表には、村山らの出発、帰庁時間として、一四時から一六時まで、と記載されている。しかしながら、前記赤松証人の証言によれば、右自動車運行表は、杉並税務署において、自動車の使用状況を明らかにするため運転手が時間を記入する文書であると認められるところ、同号証の記載自体に徹しても、右運行表の記載が絶対に確実であるとは断定できないし、乙第一号証の一に記載されている時間と右第三号証の二に記載されている時間とが著しく相違するか、または、右の自動車が、乙第一号証の一に記載されている昭和四三年三月一四日一六時一五分の時間帯に使用されていたという証拠でもあればともかく、このような証拠は見当らないから乙第三号証の一、二の記載だけによつて、乙第一号証の一の前記記載が事実に符合しない虚偽の記載であるとすることはできない。(4)原審証人村山義直は、昭和四四年一一月四日に行われた証人尋問(第一回)において、同証人が昭和四三年三月一四日控訴人方を訪れ、本件の通知書を差置送達したときの事情として、控訴人方の玄関の呼びりんのべルを押したことをかりな具体的に供述している。ところが、昭和四五年一月二九日に行われた検証において、控訴人方に呼びりんの設備がないことが明らかになり、同証人は同日の証人尋問(第二回)において、前回の証言が記憶違いであつたとしてこれを訂正している。しかしながら、同証人に対する第一回目の証人尋問の日は、同証人が控訴人方を訪れた日とされている昭和四三年三月一四日から一年半以上の日時を経過しており、同証人も第二回目の証人尋問において証言するように、同証人の職務上その前後において多くの家を訪問していて、呼びりんの設備のある家とない家との記憶を混同させて証言することもあり得ることが推認できないではないから、同証人が右のように証言を訂正したことを以て、直ちに、同証人が控訴人方を訪れて差置送達をした日時についての同証人の証言を虚偽であるということはできない。(5)乙第一号証の二の見取図には、道路と記載した部分に溝の表示がなされていない。また、右村山証人(第一回)は、控訴人方の前の道路に、川はなかつたが、溝程度のものがあり、溝には「ふた」がしてあつて上が歩けるようであつたので右見取図に道路と記載したという趣旨の証言をしている。一方、甲第八号証によれば、杉並区浜田山一丁目三番地、下高井戸四丁目三九番地先の公共溝渠改修および溝渠床板蓋覆工事は、昭和四三年八月三〇日から同年一一月一一日までの間に施工されたことが明らかである。しかしながら、右乙第一号証の二の見取図は、控訴人の居住家屋の所在とその関係位置を明らかにするために作成されたものと認められるところ、検証(第一回)の結果と弁論の全趣旨によれば、控訴人方の前の道路と溝との関係は、道路の一部に溝がある状態となつていたのであるから、控訴人方の前が全部溝の状態であつたのであればともかくして、右見取図に控訴人方の前の部分を道路と記載し、特に溝の表示をしなかつたとしても格別異とするに足りない。また、右村山証人の証言中に「ふた」とあるのが、前記溝渠床板蓋覆工事によつて施行された「蓋」と同一のものを意味するかどうか必ずしも明らかでないが、仮りに、同一のものを意味するとしても、前記検証現場における控訴人の指示によれば、昭和四三年三月一四日当時少くとも控訴人方の玄関前の溝の部分には蓋がしてあつたというのであり、右村山証人の証言(第二回)によれば、同証人は昭和四三年三月一四日以後控訴人方の前を何回か通行しているのであるから、前記乙第一号証の二の見取図に控訴人方の前の部分を道路と記載し、溝の表示をしなかつたことについてなされた控訴代理人からの関連質問に対し、同証人が、右工事が施工された前と後との状態についての記憶を混同して、証言したとも考えられるので、前記乙第一号証の二の見取図の記載および村山証人(一回)の証言を捉え、これを前提として乙第一号証の一、二が昭和四三年三月一四日以後に作成された偽造の文書であると断定することはできない。(6)以上のほか、右認定に供した前顕乙第一号証の一、二、証人村山義直(一、二回)、赤松秀一の各証言の信憑性を否定すべき資料はない。

三  原判決一〇枚目裏二行目「また」以下同四行目「いうべく」までを削除する。

よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 下門祥人 裁判官 兼子徹夫)

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